第32回 県民健康講座 「病気を抱えての長生きの秘訣とは」
平成25年10月20日
去る、10月20日、「障害者まつり」の中で行われた、県民健康講座で「病気を抱えての長生きの秘訣とは」というタイトルの講演をさせて頂きました。以下に、要約を掲載します。
本日の予定
  - 寿命とは
  
 - 長生きの秘訣はあるのか
  
 - データで見る長生きの秘訣
  
 - 長寿な人の長生きの秘訣
 
“寿命”とは、“老化”とはなにか
  - 人のからだは細胞の集合体
  
 - 細胞は細胞分裂を繰り返し、周囲の環境にも順応し、一定の状態を保っている(恒常性)
  
 - 寿命とは、生命の“恒常性”が徐々に失われていき、生命を維持できなくなった状態
 
すでに持病を抱えている場合 
  - バランスをとるためにより多くの仕組みを動員する必要がある
  
 - 休養が大切
 
“持病”が悪化するパターン
  - 治療の中断
  
 - 感染症
  
    - 風邪、インフルエンザをこじらせて悪化するケースがあります
  
 
   - 過労、睡眠不足
  
    - 気づかないうちに疲れをためていることも
    
 - 血圧手帳などに記録を
  
 
   - ストレス
  
    - 避けることは難しいですが、いつまでも引きずらない工夫を
  
 
 
長寿の秘訣とは
  - 体力、栄養、免疫力、ホルモン系、神経系、精神などの状態を保つこと
  
 - 持病のコントロールがうまくされていること
 
無病息災から一病息災へ 
  - 無病息災:まったく病気をせず健康であること(広辞苑より)
  
 - “無病”だと思い込んでいると危険
  
 - 一病息災:持病が一つくらいある方が、無病の人よりも健康に注意し、かえって長生きできるということ(広辞苑より)
 
データでみる長寿の秘訣
(1)食事について 
  - どのくらい食べたらいいのか
  
 - どんなものを多くとったらいいのか
  
 - どんなものはとってはいけないか
 
食事:全体のエネルギーと栄養素 
栄養素:蛋白質、炭水化物、脂肪、ビタミン、ミネラルなど 
エネルギー
  - 食事の量はエネルギーで表現=カロリー
  
 - とった食事のエネルギーが多ければ太る
  
 - エネルギーが少なければやせる
 
どのくらいとるのがいいのか?
カロリー制限の効果の研究1
  - 6年間の追跡調査がある。
  
 - 35〜82歳の健常男女について調査
  
 - 結果
  
 - LDL、HDL、中性脂肪、空腹時血糖、空腹時インスリン、CRP、PDGF、収縮期血圧などがカロリー制限したグループの方がよかった。
  
 - 長期間のカロリー制限は動脈硬化のリスクを減らす。
  
    - (PNAS 17, 6659- 6663, 2004) 
  
 
 
カロリー制限の効果、その他の研究 
  - カロリー制限しても骨密度は変わらなかった。
  
 - 心臓の働きも保たれた。
  
 - がん、糖尿病、動脈硬化、心血管系疾患、神経変性疾患などの発症が、カロリー制限によって遅くなる。
  
 - 肥満の人にカロリー制限をすることによってDNAのメチル化が抑制された(細胞の恒常性を保つ)というデータも
 
カロリー制限?エネルギー消費?どちらがよいかの研究
  - カロリー制限(食べるのを減らす)とエネルギー消費(運動量を増やす)とでは効果は違うのか
  
 - 結果
  
 - 20%のカロリー制限、20%の運動負荷のいずれによっても体脂肪の減り具合は同じ。
  
 - さらに、DNA、RNAの酸化による損傷が軽減される。(遺伝子の損傷を抑制した)
  
 - すなわち、細胞の恒常性が保たれる
  
 - カロリー制限(食べるのを減らす)でもエネルギー消費(運動で消費)でも効果は同じ
  
 - ただし長期の効果は不明
  
    - (Rejuvenation Research 11, 793-799, 2008) 
  
 
 
カロリー制限の効果のまとめ
  - カロリー制限、あるいはそれに運動などを加えることによって、
  
 - 動脈硬化の進展が抑えられ
  
 - 心臓の働きも保たれ
  
 - がんも減る
  
 - と期待できる
 
しかし、こんなデータも “小太りの方が長生き” 
  - 肥満度を表すBMI
  
 - BMI=体重(kg)/(身長(m)x身長(m))
  
 - たとえば身長152cm、体重50kgのBMIは
  
 - 50/(1.52x1.52)=21.6
  
 - BMIは22が標準とされてきたが、BMI 25~27の人がもっとも長生きというデータがある
  
 - 身長152cm、体重60.1kgがBMI26 
 
どう考えたらいいのか
  - 今の体重が、“やや小太り”だからといって、無理をしてさらに減らす必要はない
  
 - 糖尿病などの場合を除く
  
 - カロリーのとりすぎには気をつけた方がいい
  
 - 体型に関わりなく、カロリーの高い食べ物は控えましょう
  
 - お菓子、揚げ物、脂っこいものなどは控えめに
 
結局、まとめると “腹八分目に医者いらず” 
では、食事の中味は? 
長寿サミットが開かれた
  - 長野県では、塩分控えて、野菜の多い食事、運動などを進めた結果、平均寿命が日本一になった
  
 - 青森県では塩分摂取量が多く、喫煙率、アルコール摂取量も高く、平均寿命が短い
  
 - 沖縄県では食の欧米化により平均寿命が低下してしまった
 
もともとの沖縄の人の食事
  - 沖縄の伝統食は低カロリーで栄養素が豊富。
  
 - 沖縄食は野菜と果物が多く(植物由来の栄養素、抗酸化物質が豊富)、肉、精製した穀物、飽和脂肪酸、砂糖、塩、脂肪分の多い乳製品などが少ない。
  
 - 飽和脂肪酸が少なく、抗酸化物質が多く、糖分が少ないということが、心血管系、がん、その他の慢性疾患のリスク低減に寄与。
  
 - J Am Coll Nutr. 2009 Aug; 28 Suppl: 500S- 516S 
 
ベジタリアン(菜食主義)の食事
  - ベジタリアンとそうでない人々の間で、大腸がん、胃がん、肺がん、前立腺がん、乳がん、脳卒中による死亡率には差はない。
  
 - ベジタリアンは虚血性心疾患の死亡率が低い。これは血清コレステロールの低下、肥満率の低下、抗酸化物質を多くとっていることなどと関連がある。
  
 - 栄養不足に陥らない限りは、飽食の社会においてはベジタリアン食はプラスである。
 
栄養素についての研究 
  - 7万人規模の女性コホート研究。
  
 - 食事のパターンと死亡との関連を検討した
  
 - 賢明な食事(野菜、果物、豆、魚、鶏、全粒が多い)と西欧食(赤肉、加工肉、精製した穀物、フレンチフライ、スイーツが多い)に分類。
  
 - 結果
  
 - 賢明な食事は18年間の心血管系死亡リスクは28%、全死亡は17%の低下がみられた。
  
 - 西欧食では、心血管系疾患22%、がん16%、全死亡21%のリスク上昇
  
    - Circulation 2008 Jul 15; 118(3): 230- 237 
  
 
 
肉類を多くとるよりも、野菜、魚、豆類、果物などをとる方が長生き
栄養バランスの考え方 
主食(ごはん、パン、麺類など)、蛋白源(肉、魚、大豆製品など)、野菜・果物の3要素を必ずとるようにする
ビタミンは多くとるとよいか
  - 抗酸化ビタミン
  
    - ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなど。
    
 - 活性酸素の働きを抑える抗酸化作用を持つビタミン。
    
 - 活性酸素は、動脈硬化を起こしやすくする過酸化脂質を作り出したり、がん、老化、免疫機能の低下などを引き起こす。
  
 
   - 年齢を重ねるとともに体内で作られる活性酸素を抑える酵素の量は減少
  
 - 抗酸化ビタミンは、酵素によって処理しきれない活性酸素の働きを抑える
 
抗酸化ビタミン
  - ビタミンAは食品中にβ-カロテン(カロテノイドの一種)として多くる
  
 - ビタミンEは抗酸化作用のほか、細胞内に過酸化脂質が作られるのを抑える働きもある
  
 - ビタミンCもまた過酸化脂質の生成を抑える働きを持っている
 
抗酸化ビタミン
  - 抗酸化ビタミンが不足すると動脈硬化が起こりやすくなる
  
 - 抗酸化ビタミンを大量に補充しても動脈硬化の予防効果は得られない。むしろ有害というデータも。
  
 - 不足してはいけないが、たくさんとればいいというものではない。
  
 - サプリメントとしてとる必要はない。
 
塩分について 
塩分のとりすぎはどうしてよくないか
  - 血圧が上がる
  
 - むくみの原因となる
  
 - 腎臓に負担、薬との関係も
  
 - がん、特に胃がんとの関連も
 
食事について まとめ
  - カロリーのとりすぎを避けるために
  
  
 - 加工食品は避ける、できるだけ生の食材を単純に調理をしたものを
  
 - 野菜、果物は多くとる
  
  
 - 濃い味付けは避ける
  
 
運動
  - 運動によって血液の循環、代謝がよくなります
  
 - 筋力低下を防ぐことができます
  
 - 加齢とともに筋力低下のスピードは早くなります
  
 - こまめに運動を
  
 - リハビリの場合は目標設定を
  
 - ストレス解消、快適な睡眠につながります
 
生活リズム
  - 加齢とサーカディアンリズム(体内時計)
  
 - 加齢とともにサーカディアンリズムを司っている遺伝子に障害→体内時計が障害→協調運動障害→恒常性の障害
  
 - 持病を抱えている場合は特に休養が大切
  
 
タバコ
  - 喫煙者は非喫煙者より寿命が10年短い
  
 - 30~40代で禁煙をすると、非喫煙者と同じ寿命になる
  
 - 一日20本で10年短縮
  
 - =1本吸うと寿命が14分短縮
 
感染予防
  - 感染症によって体力は消耗し、体力がない場合は命取りにもなる
  
 - インフルエンザ、肺炎に注意
  
 - 予防接種
  
 - うがい、手洗い
  
 - 胃腸炎にも注意
  
 
健診
  - 持病があって病院にかかっていても、健診は受けましょう
  
 - 特に、がん検診は受けましょう
 
手帳を作りましょう
  - 体調管理のために
  
 - 記載すること
  
    - 血圧、脈拍
    
 - 睡眠時間
    
 - 食事
    
 - 運動量
    
 - 目標達成度
    
 - 医師への伝達事項
  
 
 
転倒予防
  - 転倒、骨折は生活の質を阻害します
  
 - 転倒予防のため、手すりをつけたり、段差を解消したり、環境整備を
  
 - 普段から体を動かしましょう
 
笑い
  - 笑いは免疫力を高めると言われています
  
 - 関節リウマチ、がんなどの治療にプラスの効果が示されています
  
 - 家族やお友達とおしゃべりをしたり、時にはお菓子を食べたり、アルコールを飲んだりして気分転換を図ることも大切です
 
疲労回復
  - 持病があると、体のバランスを保つために、気づかないうちに体力を消耗しています
  
 - 疲れをためないようにしましょう
  
 - 入浴、睡眠を
 
一人ではないと実感できること
  - 家族のために、○○のために、役に立つことを考え、行動する
  
 - 病気を抱えていても誰かの役に立つことがあります
  
    - ピアカウンセリング
    
 - セルフマネージメント
    
 - ブログ、SNS 
  
 
 
医療との関わり
  - 体の中で何が起きていて、これから何が起こりえるのか、そしてそれを予防するにはどうしたらいいか、を話し合いましょう
  
 - 自分について医師、スタッフに知ってもらいましょう
  
 - 生活の中で起きてきた心配事を相談できる「かかりつけ医」を持ちましょう
 
先人から学ぶ長寿の秘訣 
患者さんAさん
  - 90歳、女性。関節リウマチ、ニューモシスチス肺炎、骨粗鬆症、腰痛
  
 - 若い頃はスポーツが得意。高校時代に友達と二人で体育のメダルを取ったことが自信。お母様が体育と音楽の先生。自分でできることはしっかりやって何とかしようというきもちが強い。根性がある。
  
 - スポーツ観戦が好き。
  
 - 平成24年末にニューモシスチス肺炎のため大学病院に入院。臥床期間が長く、筋力も低下したため腰痛悪化。肺炎は治ったため、退院となる。通院困難なため、当院で往診。
  
 - 本人が、足の体操、足上げ、腹筋など寝たきりながら一生懸命に取り組んでいた。
  
 - トイレ歩行、入浴は可能に。
  
 - 身長が縮んだが、背を伸ばしたいと考えている。
 
患者さんBさん
  - 87歳、女性。
  関節リウマチ、寝たきり。要介護5。
   - 元中学校教師、音楽。中学校赴任当時、生徒がうまく歌えなくて泣きながらピアノ伴奏をしたことも。
  
 - スポーツ観戦が好き。相撲、高校野球、サッカー、ゴルフ。自分はできないが、選手の気持ちになって観ている。
  
 - 話好き。自分の話もするが、同じ話の繰り返しにはならないし、笑いながら話す。
 
患者さんCさん
  - 94歳、女性
  
 - 背骨は曲がっているが、特に持病はない
  
 - 一人暮らし、現在は施設に入所し、穏やかに過ごしている
  
 - 絵手紙、俳句が趣味でいろいろな人に送っている
 
患者さんDさん
  - 78歳、男性。英語教師。
  
 - 高血圧、腎機能障害、脳梗塞、心筋梗塞
  
 - モットー:燃えて、仲良く、まっとうに
  
 - 最近のモットー
  
    - S: Study(学ぶ)
    
 - P: Play(遊ぶ)
    
 - A: Art(芸術に親しむ)
    
 - C: Company(仲間)、Cheering(元気づける)
    
 - T: Teach(教える)
  
 
 
日野原重明先生
  - 低カロリー食、呼吸法、うつぶせ寝
  
 - 30歳の体重と腹囲を維持
  
 - 階段を上りながら、“吐いて、吐いて、吐いて、息を吸う” 
  
 - うつぶせ寝で胃腸も快調
  
 - フェイスブックの活用
 
曻地三郎先生
  - 御年107歳、しいのみ学園創設者
  
 - 「長生きすればよいことがある」
  
 - 「禍を試練と受け止めて前進せよ、今からでも遅くはない」
  
 - 健康長寿法
  
    - 笑顔
    
 - 冷水摩擦
    
 - 曻地式体操(棒を使った体操)
    
 - 祈る(朝の祈り、その日の決意表明)
    
 - 一口30回噛む
    
 - 語学講座を聴く
    
 - 新聞を読む
    
 - よく話す
    
 - 日記を書く
    
 - 硬いマットに上を向いて寝る
  
 
 
三浦雄一郎さん
  - 70歳でメタボ、心房細動を克服。
  
 - 栄養管理、トレーニングを行い、80歳で3度目のエベレスト登頂に成功
 
まとめ
  - 様々な研究データや先人の知恵から長生きの秘訣を紹介しました
  
 - 長生きの秘訣は、元気の秘訣でもあります
  
 - 病気を抱えていても、人としての輝きには変わりはありません。
 
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