障難協講演会 「糖尿病」・「糖尿病予備軍」といわれたら 
平成22年2月21日(日) 埼玉県障害者交流センターにて
  
    
       <本日の予定>
      
  - 糖尿病、糖尿病予備軍とは 
  
 - 糖尿病患者さん増加の背景、糖尿病の原因 
  
 - 糖尿病患者さんの身体で起きていること 
  
 - 治療
        
        
 - 質疑応答
      
  
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糖尿病患者さんが増えています
  - 1994年厚生省発表では
  
    - 40歳以上の10%が糖尿病、15?20%が境界型(予備軍)
  
 
   - 山形県舟形町での疫学調査(2003年発表)
  
    - 男性の糖尿病有病率が10年前の1.5倍に
    
 - 40歳以上の住民のうち
    
 - 糖尿病 8.4%
    
 - 境界型(予備軍)14.9%
  
 
   - 2007年厚生労働省 国民健康・栄養調査より
  
    - 糖尿病が強く疑われる人
    
    
 - 糖尿病の可能性が否定できない人
    
    
 - 両者を合わせると40〜74歳の29.0%が、糖尿病、および、糖尿病予備軍 
  
 
 
日本人は糖尿病になりやすい?
  - 日本人は、もともと粗食でも耐えられるような体質にできている=倹約遺伝子による
  
 - 近年、食事の欧米化(特に高脂肪食)、自動車の普及による運動不足、ストレスなどが加わり、糖尿病を発症する人が増えている
 
糖尿病とは
  - インスリン作用不足により起こる糖尿病は全身の代謝異常を来す疾患群で、慢性の高血糖を主徴とする
  
 - 2型糖尿病はインスリン分泌低下を来す素因を含む複数の遺伝的素因に、過食、肥満、運動不足、ストレスなどの環境因子および加齢が加わり発症する
 
体に必要な糖分について
  - からだのすべての細胞は糖分(ブドウ糖)を栄養分として活動している
  
 - 食事として取り込んだ糖分は、血液中を流れ、全身の細胞内に取り込まれる
  
 - このときに重要なのがインスリンの働き
  
 - 細胞内に取り込まれなかった糖分は血液中に残る
 
血糖値の変動
ヘモグロビンA1cとは
血糖値の調節
  - 食事をとる
  
    - →糖分が血液中に入ってくる
    
 - →すい臓がそれを感知し、インスリンを分泌する
    
 - →細胞は、インスリンの働きに反応し、血液中の糖分を取り込む
    
 - →血液中の糖分が減っていく
  
 
 
インスリンと血糖値
  - 糖尿病患者さんではインスリンが出ているのに血糖値が高くなるのはどうして?
  
 - “インスリン抵抗性”という問題・・・運動不足と関係が深い
  
 - 細胞(特に、筋肉、脂肪)が、インスリンの働きを受け入れにくくなっている
 
糖尿病の原因
食べすぎが原因?
  - それだけが原因ではないが、もっとも大きな要因の一つ
  
 - すでに糖尿病を発病している場合は、悪化の原因となる
 
糖尿病だと甘いものが食べたくなる?
  - 血液中には糖分が余っていても、一つ一つの細胞内は糖分が不足している
  
 - →糖分を求める
  
 - →甘いものがほしくなる 
  
 - “ペットボトル症候群” 
  
 - “温泉饅頭症候群(?)”
 
“血糖値が高い”ということ
  - 血液は全身に栄養を送る輸送路
  
 - 輸送路に糖分が余っている状態が高血糖の状態
  
 - 体の細胞、臓器には糖分が行き渡っていない
 
血糖値が高いままだと?
  - 細胞はブドウ糖を有効に利用できない状態が続く→様々な症状が出てくる
  
 - さらに高血糖が続くと→糖尿病の合併症
  
 - 血糖値を下げようとして膵臓はインスリンを出し続ける→膵臓が疲れてくる→インスリンが出なくなってくる→ますます血糖値は高くなる
 
糖尿病の症状と合併症
  - 高血糖の症状
  
    - 全身倦怠感、のどが渇く、多尿、足がつる、など
    
 - しかし、多くは無症状
  
 
   - 合併症
  
    - 網膜症=視力障害
    
 - 腎症=むくみ、全身倦怠
    
 - 末梢神経障害=しびれ、足の感覚低下
    
 - 動脈硬化=脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症
  
 
 
合併症を防ぐためには
  - 血糖値を下げて、それを維持すること
  
 - 糖尿病があっても、ヘモグロビンA1cが6.5以下であれば、合併症は起こりにくい
  
 - 糖尿病治療の目標
  
    - 合併症の予防
    
 - ヘモグロビンA1cを6.5以下に 保つこと 
  
 
 
血糖値を下げるためには
食事療法の要点
  - 腹七分目とする
  
 - 食品の種類は一日30種類以上を目標とする
  
 - 脂肪は控えめに
  
 - 朝食、昼食、夕食を規則正しく
  
 - バランスのよい食事を
 
バランスのよい食事のために手のひらでおぼえましょう
  - ごはんは小さめの茶碗に軽く一杯
  
 - 肉類、魚類は片手に乗るくらいの量
  
 - 野菜、海草、きのこ類は両手に乗るくらい(味付けには注意)
  
 - 果物は両手の親指と人差し指で作った輪に入る程度
 
脂肪をひかえる方法
  - 油を使わない調理法を
  
 - 肉や魚は網焼きに
  
 - 揚げ物は衣をつけない
  
 - フライパンはテフロン加工のものを
 
食物繊維を多めに
  - 脂肪の吸収を抑えます
  
 - 脂肪分のとり方
  
 - 動物性脂肪をさけ、植物性脂肪を
 
間食はどうしてよくないか
  - 食後上がった血糖値が下がってくる途中で血糖値を上げてしまうので一日の中で血糖値が高い時間が長くなってしまう
 
野菜の良い点
  - カロリーが低い 
  
 - 食物繊維が豊富 
  
 - 脂質の吸収を抑えてくれる 
  
 - 便通にもよい 
  
 - ビタミンが豊富 
  
 - カリウムが豊富 
  
 - 血糖上昇に伴う電解質のバランスを保つ 
  
 - ナトリウムの排せつを促進し、血圧を下げるイモ類、カボチャなどは栄養学的には炭水化物である点は注意 
 
動物性脂肪のよくない点
  - 常温で固まるのが動物性脂肪=飽和脂肪酸
  
  
 - 常温で液体なのは植物性脂肪=不飽和脂肪酸
  
    - オリーブオイル、ゴマ油など 
    
 - 魚の脂(EPA, DHEAなど)は不飽和脂肪酸 
  
 
   - 脂肪分はカロリーが高い 
  
 - 動物性脂肪はインスリン抵抗性を増やす 
 
脂肪をひかえる方法
  - 油を使わない調理法を
  
 - 肉や魚は網焼きに
  
 - 揚げ物は衣をつけない
  
 - フライパンはテフロン加工のものを
 
食物繊維を多めに
運動の要点
  - 運動時の脈拍を100ー120以内にとどめる 
  
 - “ニコニコペース”
  
 - 歩行運動では1回15ー30分間、一日2回、できれば毎日おこなう
  
 - 運動はカロリーを消費するために行うのではありません
  
 - ごはん一膳消費する運動量は、ジョギングなら35分、サイクリングなら1時間に相当します
 
ウォーキングの実際
  - 目線は正面
  
 - 腕の振り下ろしは力まずに肩甲骨を引くように腕を後ろに引き、ごく自然におろす
  
 - つま先はしっかりとあげる
  
 - 着地はかかとから
  
 - 拇指球を押し出す
  
 - ひざの後ろをのばす
  
 - お腹を引き上げる
 
短時間の運動の一日合計の効果
  - 一日の総歩数が多いほどインスリン抵抗性が改善する
  
 - 運動の継続時間は考慮していない
  
 - 日常生活に運動を取り入れ、一日の総歩数を増やすことが大切
  
 - 
 
薬物療法
  - インスリンの分泌を促進する薬
  
 - インスリン抵抗性を改善させる薬
  
 - 糖分の吸収を遅らせる薬
  
 - インクレチン分解を阻害する薬
  
 - インスリン(注射)
 
薬を飲むときの注意
  - 欠かさず飲むようにしましょう
  
 - 食前に飲む薬を忘れないように
  
 - 箸を持つ前に飲む、など習慣にしましょう
  
 - かぜ薬を飲むときなど、他科(歯科、整形外科など)の薬を飲むときなど、薬の相互作用が問題になる場合もあります
 
低血糖について
  - 血糖降下剤を飲んでいるときは低血糖に注意
  
 - 食事が不規則になったり、薬の量が多いと低血糖が起こることがあります
  
 - 空腹感、手のふるえ、冷や汗、動悸などがあったら連絡を
 
<まとめ>
  - 糖尿病は放っておくとこわい病気ですが、しっかりコントロールできれば大丈夫
  
 - 食事、運動など生活習慣の改善に取り組みましょう
  
 - 検査結果をよく確認し、今後の治療の参考にしましょう
  
 - 「糖尿病予備軍」といわれた方も生活習慣の改善で糖尿病発症を予防しましょう
 
<参考文献>
  - 糖尿病の一次予防、伊藤千賀子著、診断と治療社
  
 - NHKテレビテキスト きょうの健康2010年2月号 特集 メタボでないのに糖尿病
  
 - 糖尿病食事療法のための食品交換表 第6版 日本糖尿病学会編
 
<質疑応答>(講演の後の質疑応答のを再現したものです。HP作成の時点で多少加筆しています。)
Q:アルールを飲む人は糖尿病になりやすいとか、糖尿病への影響などありますか
A:アルコールも最終的にはブドウ糖となって吸収されます。カロリーだけでいうと、約一合の日本酒で、ご飯軽く一杯分になります。また、大酒家では慢性膵炎になり、インスリン分泌低下を来す恐れがあります。その点でも糖尿病にはよくありません。全体のカロリーを調節し、一日一合までならよいかもしれませんが、検査結果を見ながら主治医とよく相談して決めていくのがよいでしょう。
Q:万歩計をつけて歩こうと思いますが、一日何歩くら歩いたらいいでしょうか?
A:人それぞれ体力も違いますから、いきなり一万歩から始めるのは大変です。まず、日常生活でどのくらい歩いているかを確かめ、それにさらに1000歩、2000歩と加えていくのがよいでしょう。
Q:糖尿病が増えているということですが、男女比には変化はないのでしょうか
A:ライフスタイルもいろいろ変化していて、社会で活躍する女性も増えていますので、そのあたりをお考えになってのご質問で、大変鋭い質問だと思います。厚生労働省の国民健康栄養調査によると平成9年、14年、19年のデータでは、いずれも男性の方が1.5〜2倍ほど多く、その男女比はあまり変化していません。
Q:運転手の人には糖尿病が多いという話を聞きますが、実際はどうなのでしょうか。またどうしてなのでしょうか。
A:運転手さんは、糖尿病だけでなく、胆石や痔が多いことも知られています。やはり、食事の時間が不規則で、外食が多かったり、夜勤が長いことなどに加え、なんといっても一日中座りっぱなしで、運動不足という要素はあるようです。また、緊張感の強いストレスにさらされているということも無関係ではないでしょう。
Q:歯槽膿漏との関係はありますか?
A:糖尿病のコントロールが悪いと感染症を起こしやすくなります。歯槽膿漏も歯肉や歯根の感染症ですから、糖尿病のコントロールが悪ければ、歯槽膿漏も起こしやすくなります。また、歯槽膿漏から感染が広がって顎や頚部にまで広がってしまう場合もありますから注意が必要です。
Q:主人が糖尿病です。ストレスが糖尿病にはよくないという話がありました。たばこも吸っていて、甘いものも好きなんです。どっちもやめさせるのはストレスがたまりそうで、どちらか一方やめるとしたらどちらがいいですか?
A:もちろんどちらもやめる方がいいのですが、甘いものは、人工甘味料を使ったりしてカロリーを低く押さえることはできますが、たばこは1本だけならいい、というものではありませんので、タバコは何としても止める、そして、甘いものについてはカロリーを押さえてちょっとだけならいい、としてもいいのではないでしょうか。
Q:家族歴についてですが、リウマチなども家族がなっているとなりやすい傾向はあると思うのですが、糖尿病はどの程度関係がありますか?
A:リウマチや膠原病も家族に起こることはあり、何らかの遺伝子の関与は指摘されています。糖尿病も同様ですが、頻度としては、糖尿病の方が家族内発生の頻度は高いようです。最も、糖尿病の罹患率が高いのですから当然かもしれません。また、家族では生活習慣も似てしまうということがありますので、その意味でも家族内で糖尿病の罹患率が増える要因になっているのかもしれません。
Q:腎性糖尿というのは糖尿病とは違うのですか?
A:糖尿病で尿に糖がでてくるのは、血糖値が高くて、尿に漏れてくるわけですが、血糖値が正常でも、腎機能の問題で糖が尿に出てしまうことがあり、それを腎性糖尿といいます。基本的にはそれは治療の必要はありません。
<講演終了後>
講演会の後は、2月初旬に亡くなった障難協理事長の小太刀進さんを偲ぶ会が催されました。小太刀さんがお好きだったお団子、どら焼きなどが用意されていましたが、こんな講演の後だったので、皆さんちょっと食べにくそうでした。小太刀さんとは、2008年9月の障難協の旅行の時にいろいろお話を伺う機会があり、患者さんの会の代表としていろいろなことを考えていらっしゃることを知りました。こういう方がいらっしゃれば患者さんたちも安心だろうなあと思っておりましたので、小太刀さんを失ったことは本当に残念に思います。小太刀さんのご冥福をお祈り申し上げます。
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